リハビリテーションといえば、多くの方が「病院やデイケアでの歩行練習」や「筋力トレーニング」を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし近年、リハビリの世界では大きな変革が起きています。その中心にあるのが、仮想現実(Virtual Reality:VR)を活用した「VRリハビリ」です。その代表的な医療機器が、日本で開発された mediVRカグラです。
mediVRカグラとは?
mediVRカグラは、ヘッドマウントディスプレイと専用コントローラーを用い、仮想空間内で手を伸ばす「リーチ動作」を繰り返すリハビリ機器です。一見するとゲームのようですが、その動作には脳と体を同時に刺激する高度な仕組みが組み込まれています。
従来のリハビリは「歩行障害には歩行訓練」といった直接的な方法が中心でした。しかしカグラは、座ったままでも歩行や姿勢の改善が可能です。これは、歩行に必要な「体幹バランス」や「注意の分配」といった脳の働きを効率よく鍛えられるためです。
VRが脳と体に与える効果
人が動作を学習するときには、「動きをイメージする力(フィードフォワード)」と「動いた結果を確認する力(フィードバック)」の両方が大切です。mediVRカグラでは、VR空間で明確な目標に手を伸ばし、成功すると同時に視覚・聴覚・触覚からフィードバックが得られます。この繰り返しによって、脳の運動学習が効率的に進み、神経の再編成(ニューロプラスティシティ)が促されると考えられています。
さらに、ゲーム要素を取り入れているため「楽しさ」が継続を後押しします。実際に高齢の方や小児の患者さんでも、飽きることなく自然に動作を続けられることが報告されています。
実際の効果は?
研究や臨床報告では、mediVRカグラを使ったわずか2週間の訓練で、筋力が変わらなくても歩行距離やバランスが改善した例が示されています。また、脳梗塞後の運動麻痺、パーキンソン病、慢性疼痛、認知症、発達障害など、幅広い疾患で効果が期待できることが報告されています。さらに注目されるのは「短期間での変化」です。ある研究では、小脳梗塞後に失調症状が残った患者が、たった15分のVRリハビリで上肢機能に明らかな改善を示したと報告されています。(※ すべての方が短期間で症状改善するわけではありません。)
一般的なのリハビリとの違い
従来のリハビリは、筋肉を強くする、関節を動かす、といった身体への直接的なアプローチが中心でした。一方、VRリハビリは「脳の再プログラミング」を重視します。つまり、体を動かす指令系統そのものを効率的に鍛え直すのです。
また、座位で行うため安全性が高く、高齢者や体力に自信のない方でも安心して取り組めます。リーチ動作を通して体幹や姿勢を整えるため、ピラティスや姿勢改善トレーニングとの相性も抜群です。
未来のリハビリスタイルへ
mediVRカグラはすでに全国の病院やリハビリ施設に導入されており、在宅での利用も始まっています。新しい医療の形として、今後ますます広がっていくことが期待されます。
リハビリは「つらいもの」から「楽しく続けられるもの」へ。私たちのスタジオでは、VRリハビリに加え、ピラティスや栄養指導も組み合わせ、皆さまの健康づくりをトータルでサポートしています。
参考文献
・ Virtual reality-guided, dual-task, body trunk balance training in the sitting position improved walking ability without improving leg strength. Prog Rehabil Med. 2019;4:20190011.
・ VRリハビリを利用した在宅リハビリの展望. Re : Building maintenance & management. 2022;44 (2), 30-33.
・ VRを活用したリハビリテーション. 日本内科学会雑誌. 2021;58(6):864-867.
・VRを活用した新たなデジタル治療:体性認知協調療法. 総合リハビリテーション. 2022;50(4):351-355.
・ VR技術を用いたリハビリテーション医療の工学的理論背景. リハビリテーション・エンジニアリング. 2022;37(3):1
