④ 脳梗塞後のリハビリにVRは有効!? 脳神経の可塑性を促す

 

脳梗塞を経験された方の多くが、「手足が思うように動かない」「歩くときにバランスを崩しやすい」「注意が散漫になって日常生活に支障がある」といった後遺症に悩まされています。これらの症状は生活の質を大きく下げ、再び社会や家庭に戻るための大きな壁になります。

そんな中、リハビリの世界で近年注目されているのが VR(バーチャル・リアリティ)を活用した新しいリハビリ です。ReHAB.では「mediVRカグラ」によるリハビリを提供しています。従来の筋力トレーニングや歩行練習とは異なり、脳の働きそのものを再教育することで回復を支える革新的な神経リハビリ機器です。

 

VRリハビリの仕組みとは?

mediVRカグラでは、患者さんが座った状態でヘッドマウントディスプレイを装着し、仮想空間に現れるターゲットに手を伸ばす「リーチ動作」を繰り返します。一見ゲームのように見えますが、この動作の裏には脳科学的に裏付けられた仕組みが隠されています。

脳は「動きをイメージする(フィードフォワード)」と「動いた結果を確認する(フィードバック)」を組み合わせることで学習します。VRでは、動作成功の瞬間に視覚・聴覚・触覚の多重フィードバックが返ってきます。その結果、脳の神経回路が効率的に再編成され、神経可塑性(ニューロプラスティシティ) が促されるのです。

 

神経可塑性とは?

「神経可塑性」とは、脳が新しい刺激に応じて神経細胞同士のつながりを作り直す力のことです。脳梗塞などで損傷を受けた部分があっても、別の経路を利用することで機能を取り戻す可能性があります。

VRリハビリでは、繰り返しのリーチ動作を通じて脳の「体の地図(ホムンクルス)」を再教育します。使われなくなって曖昧になった神経回路をもう一度活性化させ、「身体の動きを脳に再プログラミングする」 のです。

 

☆研究が示すVRリハビリの効果

脳卒中患者に対する有効性

海外のコクランレビューでは、VRを使ったリハビリが「上肢機能」「バランス」「歩行能力」の改善に役立つと報告されています。ただし、機器や方法によって効果の差があるとも指摘されていました。近年は没入型VRであるmediVRカグラのように、神経可塑性を直接刺激する設計のものが特に有効とされています。

日本国内でも、脳梗塞やくも膜下出血後の患者にmediVRカグラを用いた報告が増えています。たとえば、半側空間無視を伴う脳梗塞患者では、週3回20分のVRリハを1か月間行った結果、注意力や体幹機能、歩行が改善 したと報告されています。

また、重度の注意障害を持つくも膜下出血患者にもVRリハを導入したところ、Trail Making Testや注意検査のスコアが改善し、集中力の持続が可能になったという報告もあります。

 

認知機能と身体機能の同時改善

従来のリハビリは「筋肉を鍛える」「関節を動かす」といった直接的なアプローチが中心でした。しかしVRリハビリでは、認知機能(注意・集中)と身体機能(体幹・歩行)を同時に鍛えられる ことが特徴です。

これは、脳が「どの方向に、どのくらい動かすか」と考えながら動作を繰り返すため、自然と注意力と体の使い方を統合してトレーニングできるからです。

 

痙縮や協調運動障害にも有効

脳卒中後の痙縮(筋肉のつっぱり)や小脳性運動失調などにもVRリハビリは有効であると報告されています。侵襲的な手術や薬剤を使わず、非侵襲的に改善を目指せる点は大きな利点です。

 

なぜ座位で歩行が改善するのか?

「座って腕を動かすだけで、本当に歩行が良くなるの?」と疑問に思う方もいるでしょう。

実は歩行に必要なのは脚の筋力だけではなく、体幹バランスや姿勢制御、注意の分配 です。VRリハビリでは、座位リーチ動作の中で自然にこれらを鍛えることができます。その結果、脚を直接動かさなくても歩行機能が改善するのです。

 

安全性と続けやすさ

VRリハビリは座位で行うため転倒リスクが少なく、高齢者や重度の患者さんでも安全に取り組めます。また、背景映像を固定する、視覚と内耳情報のズレを減らすといった工夫により、VR酔いの発生率は0.5%未満と非常に低く抑えられています。

さらに、ゲーム感覚で楽しめるため「リハビリはつらい」というイメージを大きく変え、継続性を高めることができます。

 

まとめ —— 脳梗塞後リハビリの新しい選択肢

脳梗塞後の後遺症は「時間が経てば改善しにくい」と言われることもあります。しかし、脳には神経可塑性という大きな可能性が残されています。

VRリハビリは、この神経可塑性を最大限に引き出し、従来の方法では得られなかった認知機能やバランス機能の改善を実現する新しいアプローチです。

ReHAB. では、VRリハビリに加えて組み合わせ、より包括的に脳と体の回復をサポートしています。

「もう改善しないかも」と諦める前にVRリハビリを試してみませんか?

 

参考文献

・ A case of cerebral infarction with attention deficit and hemianopsia trained by VR device in convalescent rehabilitation ward. Jpn J Rehabil Med. 2021;58(4):450-457.

・ Brain reprogramming therapy using VR for spasticity in cerebral palsy. Jpn J Neurol Treat. 2024;41(1):55-59.

・A case of attention deficit after subarachnoid hemorrhage successfully treated by VR-guided rehabilitation. Jpn J Rehabil Med. 2021;58(4):450-457.

・VR-guided training in rehabilitation medicine. Jpn J Rehabil Med. 2022;50(4):351-358.

・Engineering theory background of VR rehabilitation medicine. Rehabil Eng. 2022;37(3):122-125.

・VR rehabilitation as salvation for chronic pain patients? Jpn Soc Musculoskeletal Pain. 2020;12:90-93.

・ Practical playbook for mediVR. Medical Frontline Press. 2023:250-254.

・ VR-guided dual-task body trunk balance training in sitting position improved walking ability. Prog Rehabil Med. 2019;4:201900