③ パーキンソン病とVRリハビリ:mediVRカグラで歩きやすさを取り戻す

 

パーキンソン病ってどんな病気?

パーキンソン病は、脳の中で体の動きをコントロールする仕組みに不具合が起きる病気です。よく見られる症状は、手足のふるえ、体がこわばる、動きが遅くなる、そして歩くときに足が出にくくなることです。

特に困るのが「歩行の問題」です。歩幅が小さくなってチョコチョコ歩きになったり、足が前に出なくて立ち止まってしまったり(すくみ足)、転びやすくなったりします。これらは生活の中でとても大きな負担になり、「外に出るのが怖い」「人と会う機会が減った」という方も少なくありません。

薬で症状を抑えることはできますが、それだけでは十分ではありません。体を動かしてリハビリを続けることが、生活の質(QOL)を保つためにとても大切なのです。

 

mediVRカグラってなに?

そんな中で注目されているのが、VR(仮想現実)を使った新しいリハビリ「mediVRカグラ」です。

「VR」と聞くと、ゲームを思い浮かべる人も多いかもしれません。VRゴーグルをかけると、目の前に仮想の世界が広がり、まるでその中に自分が入り込んだような体験ができます。

mediVRカグラは、このVRをリハビリに応用した医療機器です。患者さんは椅子に座ったまま、VRの世界に現れる的に向かって手を伸ばすトレーニングをします。とてもシンプルな動きですが、脳と体を同時に鍛えるように設計されています。

 

どうして座って手を伸ばすだけで歩行が良くなるの?

「座って手を伸ばす練習で歩く力がつくの?」と不思議に思う方も多いと思います。実は、歩くときに大事なのは足の筋肉だけではありません。

歩行にはインナーマッスルとも呼ばれる体幹の筋肉(お腹や背中まわりの深い筋肉)がとても重要です。体幹がしっかり働くことで、足がスムーズに出て、バランスよく歩けるようになります。

mediVRカグラで行う「VRの中で手を伸ばす動作」は、この体幹の深い筋肉を自然に働かせるように作られています。その結果、座ったままでも歩行の安定性が高まり、転びにくくなるのです。

 

パーキンソン病に効果がある理由

研究では、mediVRカグラを使ったリハビリで次のような効果が報告されています。

・歩行がスムーズになる

実際に歩く練習をしていなくても、座ってのVRトレーニングで「歩くときに必要な体の使い方」が自然と改善されます。

・転倒予防につながる

VRの中では「同時に2つのことを考えて動く」ような課題(二重課題=デュアルタスク)を行います。これは「歩きながら会話する」「周りを気にしながら歩く」といった日常の動作に近く、転倒を防ぐ力を鍛えることができます。

・安全に続けられる

椅子に座って行うので、転んだり大きなけがをする心配がほとんどありません。実際、重度のパーキンソン病患者さんでも安全に続けられたという報告があります。

 

患者さんの体験イメージ

 

患者さんはVRゴーグルを装着し、椅子に座って両手のコントローラーを使います。目の前には仮想空間が広がり、そこに浮かぶボールや的に手を伸ばしてタッチしていきます。

「ゲームみたいで楽しい」と感じる方も多く、楽しみながら続けられるのも大きなメリットです。運動が苦手な方や高齢の方でも、「これならやってみたい」と思える工夫がされています。

 

未来への希望

パーキンソン病は進行性の病気ですが、適切なリハビリを取り入れることで「まだ歩ける」「転ばずに外出できる」「趣味を楽しめる」といった日常生活の可能性が広がります。

mediVRカグラは、「薬だけでは補えない部分」を支える新しいリハビリの形です。これまで「仕方がない」とあきらめていた症状に対しても、前向きに取り組める方法として注目されています。

 

まとめ

・パーキンソン病では歩行や転倒のリスクが大きな悩みになる

・mediVRカグラは、座ってできるVRリハビリで脳と体を同時に鍛える

・歩行改善・転倒予防につながり、患者さんに「また歩ける」という希望を与える

 

参考文献

Analyzing muscle thickness changes in lateral abdominal muscles while exercising using virtual reality. J Phys Ther Sci. 2024;36:372–377.

Feasibility of Somato-Cognitive Coordination Therapy Using Virtual Reality for Patients with Advanced Severe Parkinson’s Disease. J Parkinsons Dis. 2024;14:895–898.

Virtual reality-guided, dual-task, body trunk balance training in the sitting position improved walking ability without improving leg strength. Prog Rehabil Med. 2019;4:20190011

VRを活用したリハビリテーション. 日本内科学会雑誌. 2021;58(6):864–870